インク壺 コラム第1回


K:
初めてお目にかかってから、もうずいぶんと長い年月が経ちますが、改まって佐々木さんに骨董や古美術についてのお話を伺うのは、これが初めてですね。この世界には、いつ頃から興味をもたれたのですか?


ささき:
私の実家は福井なんですが、小さい頃から古い物に囲まれて育ちました。
家にあった仁清風の香炉なんかを興味深々で手にとって眺めていたのを思い出します(笑)。


K:
その頃は、何か古い物を集めておられたりしたのですか?


ささき:
骨董品というわけではなかったのですが、ご多分に漏れず、切手や古銭を集めてましたね。 それから根付や印籠なんかに強く惹かれていたのを覚えています。 これはさすがにたくさん集めるって言うわけにはいきませんでしたが……。


K:
そして、その延長線上でこの世界に入られたんですね。


ささき:
大学を卒業してまもなくこの世界に飛び込んでいました。無我夢中っていうのか、まだ何にも知らない状態でしたから、古美術品に限らず、いろんな物を取り扱ってましたね。


K:
大変だったんですね。でも、このご商売は面白かったんじゃないですか?


ささき:
商売を長く続けていくうちに、それこそ色んなモノとの出会いがありましたよ。 この商売で独立した時には、師匠にライトバンと車一台分の品物を分けて頂き、希望に燃えながらも“さあ,これからどうしよう……”なんて考えあぐねた事もありました(苦笑)。 反対に、買い付け先で素晴らしい名品や逸品に出会うこともありました。 それこそ「こんなところから(ちょっと失礼ですね(笑))こんなものが出てくるなんて!」というようなことも結構あったりして……。そうそう、「取り扱ったモノが後に国の重要文化財に指定された!」なんてこともありましたよ。


K:
重要文化財ですか……。それは凄い。
まさに名品を掘り出されたわけですね。そこに、このご商売の楽しさがあるんでしょうね。


ささき:
そうですね。でも、本当の喜びはもっと他にもあるんですよ。例えば、茶道具なんかは、実際に触れて、使う楽しみなんかも……。


K:
そういえば、佐々木さんは小堀遠州流茶道の師範でいらっしゃいましたね。


ささき:
実は、当初、「古美術商(茶道具屋)をしているんだったら、京都の大きな流派の茶道を学んだほうが商売として有利だ」って言われたんですけど、色々考えた結果、今の流派を学ぶことにしました。


K:
小堀遠州流を選ばれた理由は何だったんですか?


ささき:
懇意にして頂いていた教授から「文化を学ぶのなら、家元から直接学ばなければ伝わらない!」との教えを頂き、その上家元を紹介して下さり、今の流儀を学ぶことにしました。 お手前の所作はもちろんのこと、直伝でしか感じることの出来ない文化や精神みたいなものを教えていただくことができて、結果的にはすごく幸せでしたね。

K:
そこで茶道を修められて、茶人としての道具との出会いもあったわけですね。


ささき:
先ほどの話に戻りますが、茶道具なんかは使ってこそ初めてその価値が解ると思うんですよ。 愛されて伝来してきた道具を実際に手にとっていると、長い時間を超えてそれを使っていた先人達と時間を共有することができる……。そんな気がしますね。


K:
道具を介して、時代を遡れるわけですね。


ささき:
たとえば、京都・奈良や金沢なんかの古都を訪ねた時の気持ちに似てるんですよ。
まるでタイムスリップしたような錯覚を覚えます。 本当に良い古美術品は、別に使わなくっても眺めているだけで、“時代の香り”みたいなモノが伝わってきます。 年代を感じさせる何か、魅力があるんでしょうね。


K:
そういうものに囲まれているということは本当に幸せですね。


ささき:
これからも商売を通じてだけでなく、色々な人達と色々な場で、こういう幸せを分かち合いたいと思っています。